Vana'daily

Vana'diel 一人旅の日々.ばなでいり.

パラリンピックとチュンソフト その2

勢いで続きを書くつもりになったが,日を改めると「どうして・・・」と思わずに居られない件.

 

428 〜封鎖された渋谷で〜

イシイジロウ 3部作(勝手に命名)の第 2 作目.

ゲームシステムは「街 〜運命の交差点〜」そのままで,物語の組み立て方を変えたもの.「街」の主人公たちは渋谷と言う「街そのもの」を共通点として各々の物語を紡いでいたが,「428」の主人公たちは渋谷と言う「街で起こる事件」を共通点として物語を紡ぐ.「街」の面白さは(まるで交差点を行き交う人のように)各々が別々の方向へ向かって勝手に物語を進めていたその無秩序さにあったが,「428」は「事件」を中心に主人公たちが動く事によって物語の見通しがスッキリとし,圧倒的にエンタテインメント性が高まった.たまたま「428」が発売された 2008 年に「バンテージ・ポイント」と言う映画が公開されたが,見た事がある方はこれを思い出すと分かりやすい(この映画も面白かった).

ちなみに,続編では無いが「街」の世界とは背景を共通としており,物語の端々に前作の面影(登場人物とか)が見られる.

物語は一人の少女が身代金の引き渡し役としてハチ公前に佇むシーンから始まる.単なる誘拐事件.捜査員が多数紛れるこの衆人環境の中ならば,犯人が身代金を手にした瞬間に容易に捕らえられるだろう.そんな単なる誘拐事件.そのはずだった.だが,身代金はアタッシュケースごと奪われるばかりか,少女も行方不明になってしまう.犯人を追う若手刑事.少女と共に謎の男から逃れる地元青年.渋谷で取材を進めるフリーライター.被害者の父.そして猫の着ぐるみ(笑) 各々が渋谷で繰り広げる物語は思わぬ事件を中心にして結びつき,やがて一つの物語に収束していく.

物語の全体は,次々と巻き起こる不可解な謎を追い求めるサスペンス・ミステリ仕立て.ビジュアルノベル叙述トリックを使われるとは思わなかったので,犯人(と言うかラスボス)が明らかになった時には結構驚いた.

各主人公の話は,混乱する現場の緊張,逃避行での緊迫,遅々として進まない捜査への焦りなどと共に,コミカルな話やバカバカしいノリの話も揃えられていて,物語の全体としてのバランスが良い.「どうして?」と言う疑問符が浮く展開ばかりなのだが,各主人公が動くことによって少しずつその疑問が晴らされ,それと共に犯人が張り巡らせた周到な計画の一端が見え始める・・・と言う展開は非常に上手い.

後半になると事件に迫る男たちの手に汗握る急展開に収束していき,そのスピード感も小気味良い.若手刑事が覚醒してからが本番か.同僚,先輩,上司,奇妙な縁で結びついた男たちが渋谷を守るために各々の正義を全うする姿はなかなか熱く,王道で,見どころだ.これが見たかった感がスゴイ(語彙力).

物語が物語なのでバッドエンドで主人公たちが死ぬパターンが多いのだが,分岐先で意外な一面を見せつつ殉職したりするので,ルート選択ミスに落胆させるのではなく,物語を多面的に捉える一手段に昇華した点は上手いなぁと思わせる.もちろん,バッドエンドを回避するためのヒントにもなっている.

「街」における「つづく」も(428 では「KEEP OUT」と呼ぶ.現場に張られる黄と黒のあのテープのイメージ),銃口を向けられてどうなる? 的な良いシーンで止まることが多く,演出手段として各段に上手く機能している.

メインのシステムは基本的に静止画+テキストの王道ノベルゲーなのだが,微妙に画像をスライドさせたり効果音に合わせて動かしたりと,格段に演出パターンが増えており,その点でも「街」からの進歩が伺える.「街」のアップグレード版として多くの改善と進歩が伺えて,システムのまとまり具合は 3 部作の頂点と言える.今プレイしてもまったく見劣りしない.

ミステリものは犯人を知っていると面白さが半減してしまうように言われるが,しばらく時間を置いて犯人を忘れた頃にプレイするとよい(笑)  相変わらずエンディングはあっさりしているが,主人公たちが迎えるものはどれもがハッピーエンドで申し分ない.彼らのその後が容易に目に浮かぶ,そんな大団円だ.ただし,ラスボスの扱いは賛否があるらしい.トゥルーエンドのラストは「いかにも」な展開なので私的には気にならないが・・・.ノーマルエンドも選択肢として有り.父が父を取り戻すエンドは泣ける.

一方,個人的にはキーキャラクタの一人が完全な舞台装置となっており,そこを残念に思っている.そのキャラクタの存在こそがハチ公少女が追われる理由なのだが,その条件と言うか存在が特殊過ぎる.キャラクタのその後はエクストラシナリオで語られるが,その話があまりにも残酷すぎて,なのになんとなく美談にまとめられてしまっている点が鼻につく.単なる物語であるからこそ,ならば物語としてこの話は回避して欲しかったと思わずに居られない.キャラクタたちが設定に踊らされ過ぎて,あまりに不憫すぎる.

言われてみれば「街」の隠しシナリオも同じような感じの話なのに,なぜこうも後日談の印象が違うのか.やはり,キャラクタが物語のなかで生きているのか,キャラクタが物語のために生かされているのか,その違いに依るものなのではないかと思っている.ちなみに,このシナリオは我孫子武丸さんによる.話自体がミステリ作家の領分でなかった点が悔やまれる.

タイムトラベラーズ

イシイジロウ 3部作(勝手に命名)の第 3 作目.

LEVEL5 に移籍?して作られたもので,曰く,カジュアルプレイヤにアプローチするように作られたらしい.内容も近未来 SF もの(2031年の渋谷が舞台).ノベルゲーにおける選択肢の存在を SF 的に解釈し,物語に組み込んだ作品と位置付けられる.が,それってなんてシュタゲ?な訳で,2012 年発売作品としての目新しさはあまりなく,故にカジュアルプレイヤにリーチすると言う目論見は大いに外れたっぽい(シュタゲが2009年だから,タイムトラベルものが盛り上がっていた時期ではあるかも).

なお,「街」「428」と背景世界は共通しており,本筋に関わらない範囲でキャラクタや事件などがチラホラと姿を見せている.古参プレイヤは喜んだ.

物語は,「ロストホール」と言う大事故から 13 年後の東京を舞台に,とあるバスジャック事件に巻き込まれた主人公たちを中心に「ロストホール」の真実に迫っていくと言う群像劇.テロリストたちの目的は何か.ロストホールで何が起こったのか.何が起きようとしているのか.

主人公は 5 人だが,過去作に比べて随分と大人しめ.大人しいと言うか常識人が多い(笑) マッドサイエンティストと思わせてそうじゃないとか.変身ヒーローに憧れる主人公が最異端な程度だが,性根はかなり真っ当で意外性は低い.

物語は意外に重く,人が死ぬ描写も多い.「街」や「428」のように選択肢で回避できるかと思うとそうでもなく,結構ドライな内容で吃驚した.ただ,本質的にシリアスさは持ちつつも,主人公毎の物語はこれまでどおりそれぞれに色があり,面白い.淡い初恋モノ.ブラフを駆使したハッタリモノ.ヒーローを目指す挫折と苦労モノ.ジャーナリストとして真実を求めるモノ.刑事モノ.特にヒーローものの後半の盛り上がりは一見の価値あり.リン・ミンメイが出てきた時は笑うどころか泣きそうになった(分かる人だけ分かれ).

全体的には,予算の都合なのかボリュームの少なさが目につく.特に後半の展開が怒涛過ぎて説明不足感が大きい.物語の根幹部分,つまり,真のタイムトラベラー(ズ)とは誰の事で,それはなぜ生まれたのかと言う説明が物凄く消化不足のまま物語は先に進んでしまい,でも何となく雰囲気で納得すると言うモヤモヤ感.確かに切羽詰まった状態なのだが,キャラクタたちが命を賭して選択した未来を天秤にかける葛藤的なものが,それを取捨選択する側にもっとあっても良かったのでは,と・・・.それがキスシーンだとしたら,あまりに未練が無さすぎる.もっと苦悩して欲しいし,実際苦悩するだろうし,いやむしろその淡泊さが今の若者世代なのか?と疑心暗鬼に陥ったりもする.でも,伝えないと伝わらないよ.

システム的には,それまでの実写静止画からフルモーションの 3D アニメに変わった点が見た目的に大きく,更にフルボイスになっている点が大きい.この点はノベルゲーから大きな躍進を遂げたが,ゲームジャンル全体としてそこに目新しさはなく,カジュアルプレイヤにリーチすると言う目論見は以下略.

また,ザッピングが無くなった点はかなりの英断に思える.その代わり,主人公の切り替えは自動で行われるようになった.例えば,女子アナが交差点で刑事を轢いてしまうシーンを選択肢で回避すると,女子アナから刑事に自動的に物語が遷移する.テンポよく物語が進む,かつ,難易度低減に繋がる点がメリットだが,主人公たちの関り合いを探し出すと言う 3 部作最大の特徴でありゲーム性が無くなった点は大きい.

「街」や「428」は静止画を見つつテキストを読むことで,主人公たちの心情を知り,あるいは想像する余地があった.3Dアニメとボイスはこれらの余地を排してしまう.残念ながら,主人公たちの内心の機微を知れるほどに 3Dアニメの表情やモーションのクオリティは高く無い(未だにそこへ到達したゲームは無いのではないか).カジュアルプレイヤ向けに設えられた今作は,大きな冒険を行ったその心意気は買うものの,本質を見失ってしまったのではないかと危惧せざるを得ない.

と辛辣な事を書きつつ,でも全体的な雰囲気やキャラクタが好きで再プレイが苦にならない.欠点はあるが愛すべき作品と思っている.特にリン・ミンメイが以下略.なお,主人公たちには歌詞入りのテーマソングがあり,ゲーム中も効果的に流れる.この曲がすこぶる良い.特に主役女性 2 名の曲は,ゲームプレイ後に英語歌詞の意味を調べると泣ける.ちょっとした SF 知識があるとベター.でも,シュレディンガーの猫なんてもう常識だよね?(断言)

個人的に群像劇が楽しめるこのシステムは好きで,この 3 部作で終わってしまうのは惜しいと思っている.今回はボリュームが足りなかったので,自作は「SBY428」なんてどうだろう. 428 人の地下アイドルたちが渋谷を舞台に群雄割拠する一大叙事詩的なファンタジー作品とか.どんなだ.

銃声とダイヤモンド

誘拐犯や立て籠もり犯などと直接交渉して利害を調整し事件を解決に向かわせる「交渉人」が主人公のアドベンチャーゲーム.無茶苦茶面白い.一癖あるキャラクタ達の誰もが立っていて,しかも一人として不要な人物が居ない完ぺきな配役.いくつかのシナリオをクリアしていく中で,徐々にタイトルの意味が見えてくるストーリー構成は見事.続編がやりたいけど無理なんだろうな・・・と言う点が唯一の不満.

このゲームの特徴の一つが犯人との「交渉」.いざ犯人と交渉することになった場合,犯人の発言に対していくつかの選択肢を選んで犯人を望んだ方向へ誘導していくのだが,これがリアルタイムで行われる.つまり,モタモタしていると犯人は勝手に話を進めてしまいバッドエンドへ直行する.犯人の話に適切に合わせて選択肢を選ばなければならない緊迫感がそこにある.しかも,選択肢は変化していく.すぐに消えてしまうので即答すべき場合もあれば,焦らして別の選択肢を導き出す必要がある場合もある.犯人の情動に合わせてその場で判断していかなければいけないその緊迫感が,(体験した事は無いが)いかにも「交渉」の雰囲気を醸していて上手い.

しかも,一見正しそうな選択をしても犯人が思い通りの反応を示すとは限らない,その点が個人的には気に入っている.犯人は警察に追い詰められた状態なのだから,普通の精神状態ではない.だから一見してプレイヤから見て正しい答えが正しいとは限らない.そこが面白い.

一方で,このリアルタイムな交渉システムは難易度が高い.相手が予想もつかない反応をする場合もあるから慎重にならざるを得ないし,一方で刻々と時間は過ぎる.時間経過で選択肢が変わってしまうのでモタモタしていられないし,だがモタモタすべき時もある.時間経過と経時変化によって生まれるこの選択肢の多さ,選択のし辛さが,このゲームの難易度を劇的に上げる.しかも,選択によってシナリオはバッドエンドやノーマルエンド,グッドエンドへと分岐する.そして,すべてのシナリオをグッドエンドで終わらせないと,最後のシナリオが解禁されない.

ので,このゲームは何度かトライしたものの,攻略サイト無しではクリアできませんでした・・・.悔しい(笑) 

ただ,上述のとおり,「交渉」の難しさや楽しさは本物で,もしプレイする機会があるのならば,ぜひ,まずは攻略情報無しでプレイしてみてもらいたいと思う.場合によっては思いがけない方向へ話が進んでしまう事もあり,そのライブ感は先入観無しでないと楽しめないだろう.良作.

ちなみに,このゲームも音楽が良い.私的無限ループできるゲームミュージックサントラTop 3 に入る(笑) 残りは FFXI の 1st サントラ.あと PSO の 1st サントラ.