Vana'daily

Vana'diel 一人旅の日々.ばなでいり.

アルタナミッション4「舞姫、来たりて」その3

踊り子としての血が騒ぐのだった。

 

良くある前口上を述べながら司会が現れると、暗かった部屋が明るさを取り戻していた。

司会「さあ、ショーのはじまりです・・・!」

そう言いながら司会がステージに向かって腕を振ると

ステージ脇から3人の踊り子たちが現れ、深々とした一礼のあと、

文字どおり光を振りまきながら

軽快にステップを踏み始めた。

音楽と踊りとが混然一体となったその舞台に人々の目は瞬く間に釘付けとなり、

縦へ横へと羽根が生えたかのように軽やかに舞う様は、

妖精もかくやと言わんばかりの美しさで観客の胸を打った。

ラジュ「まさしく 戦場に舞い降りた妖精たち といったところだな」

横に立つラジュリーズ男爵はそう耳打ちすると、

ラジュ「なあ、ところできみは 誰の踊りがいちばんカッコいいと思ってるんだ?」

と、こちらを見てニヤリとした。

ブリリオート舞踏団の一員と知ってか知らずか、男爵は冒険者を試しているようだ。

腕の振りと角度。

指先までしっかりと意識しながら手の表情はあくまでも自然。

腰の高さ。背筋の緊張感。

組んだ脚は真っ直ぐに伸び、しかし重心のブレはまったく見えない。

そして何より、踊りを心の底から楽しんでいると言う晴れやかな表情。

あらゆる要素が踊り子の目を惹きつけた。

カッコいいカッコ悪い以前の話だった。

踊り子としての完成度の高さが他の追従をまったく許さない。

中央に居る彼女こそが舞踏団の花形スターなのだと、誰の目にも明らかだった。

再度店内が暗転し、どこからか司会の声が聞こえてきた。

司会「・・・さあ、皆様お待ちかね。続いて、我がマヤコフ舞踏団のトップアイドル、月影の胡蝶、リリゼットのソロ・ステージです!」

そこに現れたのはまさしく彼女。

・・・だったのだけれど、

え?

ん?

んんんんんんんn?????????

えちょっとこれ子供に見せていい奴なの?(笑)

ラジュ「・・・彼女が 気になるのかい?」

思わず息を呑む冒険者の様子に男爵は見当違いな事を問う。

ラジュ「リリゼット っていうんだ。なんでも謎の多い女の子らしくてな」

勘違いしたままの男爵は解説を続けていた。

ラジュ「最近、入団した新入りなんだが・・・入団試験に一発合格」「瞬く間に観客の心をつかんで スターとして認められた、ダンスの天才なんだと」

ダンスの天才。それはまごう事無き事実だった。ひと目見れば分かる。

全盛期のライラを知らないけれど、踊りの名家に生まれた彼女が美しくカットされた稀代のダイヤとすれば、リリゼットはまだまだ磨き甲斐のあるその原石に思えた。

底が知れない。

ラジュ「しかも、父親がエルヴァーン 母親がヒュームってこと以外は 出身、経歴、年齢、なにも 話さないてんだから、興味はつきねえ」

リリゼットの踊りからまったく目を離すことなく、男爵は心なしか饒舌に語っていた。

ラジュ「ま、そのミステリアスな ところが、また魅力となって 人気に拍車をかけてるんだろうけどな」

秘すれば花。謎めいた部分が影となり、彼女の輪郭をより一層際立たせる。

なんとなくマヤコフ団長の演出のようにも思えたけれど、トップアイドルとしての隙の無さが嫌味に思えないほどに、彼女は別格の存在に思えた。

胡蝶の夢のようなひとときが終わり、気が付けばリリゼットのステージは終わっていた。

夢に彷徨い現(うつつ)を忘れる。

誰もがこのステージを求める理由が判った気がした。

ぼぅっと心地よい余韻に浸っていると、

司会「・・・さあ、そろそろ 胡蝶が羽根を休めるようです」

の声と共にリリゼットが短剣を構えていた。

その姿を見て観客が「おお」とどよめく。

剣舞

リリゼットもまたライラと同じく武踊を嗜むのだろうか?と思っていると、

司会「留まる花となる、本日の幸せなお客さまは・・・!?」

の声に会場が静まり、リリゼットの短剣が鋭く光った次の瞬間、

その手を離れた一振りが

冒険者の許へ真っ直ぐに飛び、

あわやその胸元に吸い込まれると思った瞬間、剣は紙吹雪となって冒険者の身を包んでいた。

あまりに一瞬の出来事で誰もが動けずに居たなか、ただ一人リリゼットだけが静かにお辞儀をする。

やがてほぅと言う溜息が漏れ聞こえはじめそれが拍手に変わっていくと、リリゼットが頭を上げる頃には盛大な歓声となって店内に満ちていた。

興行は大成功だった。

男爵と共に店を出ると、彼の部下らしい騎士たちが彼を待ち構えていた。

あまりの監視体制に「まるで深窓の令嬢だなあ」と冗談めかして笑う男爵だったが、

気が付けば先ほどとは打って変わった雰囲気で部下に問うていた。

ラジュ「全員、集まったのか?」

部下「はい、鉄鷹騎士隊総員、閲兵場に集結しております」

それを聞いた男爵は口元を綻ばせてニヤリとすると奇妙な事を言う。

ラジュ「うむ。では参るとするか。マヤコフ団長」

団長「・・・御意」

「え?」と思い「どういうこと?」と男爵に問おうとしたら、もっと驚くべき光景が、物体が、生き物が、男爵の背後に居た。

は? え? なぜアトモスではなく過去世界にケットCが?? 最後に会った時、彼女?は何と言っていたのだっけ・・・?

予想外の状況に混乱していると、いつの間にか男爵の部下もマヤコフ団長も何処かへ去っており、律儀な男爵だけがお別れの言葉を述べていた。

ラジュ「・・・じゃ、オレは ちょっとヤボ用があるから」

それだけを言うために呆けた冒険者を待っていたとしたら、男爵はまごうことなき紳士なのだと冒険者に思えた。これだけしっかりとした人物はこれまで会った事がないのでは?とすら思う。と言うか、これまで会った人物たちに癖があり過ぎる。

ラジュ「どこかで顔を合わせることもあるだろうぜ。じゃあな!」

清々しい笑顔と清々しい台詞を残して男爵はどこかへ去っていった。

どんちゃん騒ぎでもしねぇと身がもたねえ」と言っていた彼が少しでも気晴らしができたのだったら、と思わずに居られなかった。もっと会話を弾ませれば良かったと悔やむ。

おっとそんな事を考えている場合では無かった、と慌てて猫を追うと、

彼女?は東ロンフォ〔S〕へ向かって黙々と歩いていた。

堂々と歩くその姿に、なぜか誰も気づかない。

あまりに場違いなその光景に「白昼夢なのでは?」とすら思えてきた。

 

その頃、ラジュリーズ男爵はドラギーユ城へ赴いていた。

到着するや「・・・ラヴォール村の戦況は?」と彼が問うと、部下の一人が返答する。

村に残る茜隼騎士隊は防戦に専念するも、敵の包囲は厳しさを増し一刻の猶予もならないらしい。

その報告に気色ばむ一同だったが、同じく部下が「しかし、問題が・・・」と切り出す。

部下「援軍としては、いささか戦力不足かと・・・」

アルテニアお姉さまによれば、ラヴォール村にはオーク軍団の将軍2巨頭が向かっていた。一方は王都を包囲すらした軍団だから、相当な実力と戦力を有していることが想像された。

部下の懸念は尤もだと思えたけれど、ラジュリーズ男爵は「ははは」と笑いを零す。

ラジュ「安心しろ。そんなこったろうと思って 心強い助っ人をスカウトしてきたぜ!」

「?」と疑問符を浮かべる部下たちの前に、マヤコフ団長と一人の踊り子が姿を見せた。

部下「隊長殿、こちらは?」

あまりに場違いな人物の登場に思わず部下の一人が問いかける。

ラジュ「今をときめく マヤコフ舞踏団の団長殿だ」

さも当然とばかりにそう答える男爵はこの状況を楽しんでいるようにすら見えた。

部下「マヤコフ舞踏団・・・ダ、ダンサー・・・ですか?」

ますます混迷を深めた風で部下は微妙な反応を返す。その姿を見て男爵は更に楽しそうな表情を見せた。

ラジュ「おおっと、誤解するなよ。舞踏団は世を忍ぶ仮の姿・・・」「しかしてその正体は、隊血盟軍用に結成された 屈強なるレジスタンスグループなのだ!」

ドヤ顔をする男爵に部下は思わず声を上げる。

部下「なんと!」

なんだか良く判らない雰囲気の騎士団に対して、マヤコフ団長は落ち着いた表情で淡々と自己紹介を始めた。

団長「・・・わたくしども、舞踏団の踊り子は、本を正せば、ラヴォール村の 修道院で育てられていた、孤児がほとんど」

記者のまえで、冒険者のまえで、オネエ言葉を繰りつつ品を作っていた団長とは打って変わり、彼は終始真面目な表情で語っていた。

団長「あの美しかった 故郷を護るため、微力ながら 我が舞踏団も御協力致したく・・・」

団長「ポーシャ!」

鋭い声でその名を呼ばれた踊り子は、ラジュリーズ男爵に向かい優雅な会釈をする。団長によれば武踊においてマヤコフ武踏団きっての腕前の彼女は、

ラジュ「・・・良いのか?」

と言う男爵の言葉に眉一つ動かさずに答える。

ポーシャ「・・・はい。・・・この世の果てまでもお伴致します・・・」

団長が言う通り、レジスタンスとしての彼らの覚悟は本物のようだった。

彼らの本気に水を差すように、部下の一人が無粋な一言を投げかける。

部下「・・・彼女は? ええと、確かリリゼットとかいう・・・」

マヤコフ舞踏団が武踏団でもあるのならば、リリゼットも相当な武踊の手練れに思われた。

だが、団長は当然のようなその質問に冷たく返す。

団長「あの子は、まだ子供。・・・危険な場所に 赴かせるのは忍びなく・・・」

ラジュ「・・・よし、1刻後に出発する」

話はこれまでとばかりにラジュリーズ男爵は指令を発する。

部下「・・・」

だが、部下の一人は何か考えるところがあるのか、その様子を表情の読めない目で静かに見つめていた。

ラジュ「解散!」

ラジュリースの声にこの場に居た騎士たちが剣を捧げる。

だが、その人数はあまりに少なく、その掛け声は精彩を欠いていた。

戦力不足は見るからに明らかだった。