サンド〔S〕クエスト「ちいさな勝利、ひとつの決意」その2
決意の刻なのだった。
捕虜のお姉さまを助けようと奮闘した件の続き。
冒険者+少年騎士団の勢いに圧倒されたゾッグボッグは、去り際にまたも意味不明な事を言っていた。
エグセ「仇敵とかカタキとか、なんの話だ?」
ラーアル「さあ・・・」
(その捨て台詞から、ゾッグボッグも「現代」のヴァナ・ディールからやってきたと思われた。気になるのは、冒険者とゾッグボッグ以外にどれだけの「現代人」がこの世界にやってきているかだった)
(何かの使命を帯びてこの世界へ呼ばれたと考えていたけれど、人間と獣人がそれぞれ「過去」に呼ばれたとしたら、その「呼んだ主」は何を目的としているのだろう。考えを改めなければならない、のかもしれない)
なんてことを考えていたらエグセニミルに痛いところを突かれた。
エグセ「お前はあとでゴミ拾いな。理由はわかるだろ?」「お前がちゃんと トドメ刺さねーから、危うくオレが ミンチになるところだったじゃねーか!」
ええ・・・あ、はい・・・。グウの音も出ない。
アルテ「エグセニミル」
その様子を見たお姉さまが急に前に立つと、エグセニミルは見るからに慌てた。
エグセ「うっ・・・な、なんだよ。アルテニア」
アルテ「・・・ありがとう」
嗚呼やはりお姉さまは天使のように純真な心の持ち主なのだわ素直にお礼を口にすることが一体どれほど難しいことなのかでもお姉さまはそんなことを一切気にされずに思ったことをそのまま相手に伝えられるのだなんて素晴らしく気持ちの良い方なのだろう。
エグセ「!?」「ア、アルテニア・・・」「頭打ったんじゃねーのか?」
(殺意)
アルテ「ちょっと、人がせっかく まじめに感謝しているっていうのに、この子は!」
エグセニミルの言葉に「はぁ・・・」とため息を吐くお姉さま。やれやれと言う風に首を振るさまは、でも、なんだか少し嬉しそうに見えた。
エグセ「ラーアルも 冒険者さんも・・・」「・・・本当にありがとう」
そうお礼を述べるお姉さまは、しかし、急な気配を察して声を上げる。
アルテ「な、なに?」
それは・・・地を揺るがす大軍勢の足音。
血気に逸ったモノたちが放つ野放図な殺気。
先頭を歩くオークを見てラーアルがその名を口にする。
ラーアル「ドッグヴデッグ! 王都を包囲した軍団の将軍だよ!」
そのオークこそがエグセニミルの仇敵。彼の母を死に追いやった・・・。
ラーアル「どうする、エグセニミル!?」
そう問いかけるラーアルに、だが、エグセニミルは何ら反応を示さない。
ラーアル「・・・エグセニミル?」
アルテ「あ、あれは・・・!」
別の気配にお姉さまが気づく。
アルテ「野豺軍団のバックゴデック!! こんな近くに!」
エグセ「・・・」
アルテ「バックゴデックと ドッグヴデッグ・・・オーク軍の両巨頭と 言ってもいい将軍たちよ。それが足並みをそろえて 出撃だなんて、どういうこと!?」
そこまで言って、お姉さまもようやくエグセニミルの異様な雰囲気に気づく。
アルテ「エグセニミル! 今からあいつらを追いかけて倒そうだなんて バカなことを考えちゃ・・・」
向こう見ずなエグセニミルを心配するお姉さまだったけれど・・・その言葉すらエグセニミルには届いていないようだった。
アルテ「・・・エグセニミル?」
誰もがエグセニミルの様子に不安を覚え始めた頃、
アルフォ「・・・みな無事か!?」
事の次第を知った王立騎士団が、アルテニア救出部隊が、ようやく現場に辿り着く。
その場に現れたアルフォニミル伯爵は眼前の光景に絶句していた。
アルフォ「これは・・・本当にお前たちだけで、これを・・・?」
現場を率いていたオーク軍の隊長。
内通の嫌疑をかけられた神殿大騎士。
いずれもが戦意を失い気絶してその場に伏せていた。
アルフォ「ダルヴィーユ卿? まさかそれも彼らだけで・・・!? わかった、速やかに捕らえよ」
半信半疑のアルフォニミル伯爵だったが、驚いてばかりも居られない。先ほどの大軍団を目にしていた伯爵は素早く指示を出して撤収する。
アルフォ「・・・今は急いで ここから離れることにしよう。オークの駐留部隊に気づかれては事だ」
サンドリア〔S〕に戻りロロンの許へ向かった。
ロロン「我輩は盗聴の件で 鉄羊騎士団のロンジェルツ隊長に雷を落とされ、正直ヘコんでいるであります!」
ヘコんでいる様子とは真逆に元気いっぱい出迎えたロロンの姿がやけに可愛い。大変な作戦だったことは彼も良く知っているのだから、きっと仲間を励ますべく輕口を叩いているのだろう。少年っぽい気の回し方が微笑ましい。
早速やってきたエグセニミルは、
エグセ「今日はラーアルも ビスティヨもいねーよ。金の羽根で盗聴していたこともバレちまったし、大人たちに叱られてんじゃねーのかな」
なんて他人事のように話していた。
ん?んん??と思って「じゃあどうしてエグセニミルはここに居るのか」と問うと、
エグセ「え? オレ? もちろん逃げてきたに決まってんだろ」
とドヤ顔をしていた。
やっぱりプリッシュと親戚なんじゃないの?(笑)
???「・・・エグセニミル」
そんな彼に声をかけたのはフィリユーレ副団長とお姉さまだった。むっ。
フィリ「エグセニミル、父上がお探しだったぞ」
そう言う副団長はなぜかお姉さまへ向き直り、
フィリ「アルテニア、まだ歩きまわっては 身体にさわろう。無理はするな」
と言って去っていった。何この雰囲気。
一体全体どうして二人でここに現れたのだろう二人はここに来る前に何をしていたのだろうか無事帰還できたことを祝いにフィリユーレがお姉さまの許を訪れたのだろうかまさかお姉さまがストーカーに会いに行ったとは思えないし思いたくないしそんな現実は受け入れたくないし夢に違いないし。
アルテ「行くわよ、エグセニミル。いいわね?」
妄想に押しつぶされそうになっていたら、いつの間にかどこかへ行く事になっていた。
行く先はアルフォニミル伯爵だった。
エグセニミルを手助けしお姉さまを救出したことに礼を述べられた後、ダルヴィーユについてその素性を説明してもらえた。
アルフォ「彼は、いまは亡き 東サンドリアの復活をもくろむ勢力・・・ いわゆる『東王派』の残党であったらしい。王国が東西に分裂していた時代の、負の遺産だ」
彼が口にしていたとおり、東王派は10年ほど前にオークと結託してグランテュール前国王を誅殺したらしい。そして、今回も獣人と共にデスティン現国王の命を狙ったようだ。
ダルヴィーユはデスティン王を僭王と称していたから、東王派はドラギーユの血に連なる者を絶やし、東王(誰なのか知らないけど)の復権を狙っていたのだろう。
「サンドリアを本来 あるべき姿へと導いているに過ぎん」と言う彼の言葉がようやく腑に落ちた。
アルフォ「彼らの計画を 止めることができたのは、貴公らのおかげだ」
そう言うアルフォニミル伯爵を見て今ごろ分かったのだけれど、どうやら伯爵は感情を表に出すことが苦手らしい。
アルフォ「騎士団からの心と思って、どうかこれを受け取っていただきたい」
お礼を述べているような顔つきにはとても思えなかったけれど、その声色は随分と優しい。
この不器用さが父子の軋轢の原因の一つだとしたら、随分と損な役回りなのかも知れないな・・・と同情心が湧いた。もしかしたら妻と共に居た頃はもっと感情が豊かだったのかも知れない。息子と3人で笑い合う日があったのだろうか・・・とそんなとりとめのない事ばかりが気になってしまった。
勝手な妄想を広げていたら、
エグセ「・・・親父」
変声期を過ぎたばかりの、まだ少し幼さの残る少年の声で我に返った。
アルフォ「・・・? 何だ、エグセニミル」
そう問われたエグセニミルは、オーク軍団を見送っていた時と同じ表情で父親を見上げていた。
エグセ「次の遠征に オレを連れていけ」
アルテ「・・・エグセニミル!」
アルフォ「・・・。なぜ今、そのようなことを言う?」
絶句するお姉さまと、対照的に冷静な伯爵。
エグセ「ジャグナーの森で、王都を包囲したドッグヴデッグの軍団を見た。母上を、・・・手にかけた連中だ・・・」
アルフォ「・・・!」
少し声を震わせる息子の言葉に今度こそ伯爵は絶句する。
エグセ「目の前が真っ赤になって、追いかけて、刺し違えてでも殺してやる! そう思った」
プライドが勝るはずのエグセニミルが、目を伏せながら拳を震わせていた。
エグセ「でも・・・」
その戦慄きは誰の目にも明らかだった。そして、少年はそれを隠さなかった。
エグセ「足がすくんで、一歩も動けなかった」
エグセ「もっと・・・力が欲しい」
急にかぶりを振ったエグセニミルは真っ直ぐな目で父を見上げた。
エグセ「ただの力じゃない。敵の大将を目の前にしてもくじけない、勇気と智略が欲しいんだ!」
それがあの時に少年が出した答えだった。心の中で火の点いたその真っ直ぐな想いが、いま彼を突き動かしていた。
エグセ「親父、頼む! オレを次の戦いに連れていってくれ!」
彼がどんな思いで少年騎士団を興したのか、付き合いの短い冒険者には分からなかった。だが、彼が少年騎士団を卒業するだろうことだけはハッキリしていた。
彼は大人への階段を踏み出したのだ。
だから、父親も息子を一人の人間として扱うと決めていた。
アルフォ「・・・いちどだけ問う。その言葉、本気か?」
エグセ「もちろんだ! オレを戦場に連れていけ!」
アルフォ「・・・わかった。あとで屋敷に来るがよい」
アルテ「エグセニミル! 本気なの!?」
アルフォニミル伯爵が去って後、お姉さまは堪らずそう問い質していた。
アルテ「あたしだって、あなたがただの子供じゃないことは知ってる」「でも、戦場と言う場所は・・・!」
捕虜になり死を目前にしたお姉さまの言葉は本物だった。
けれど、少年の決意は変わらない。
エグセ「あの親父が いちど連れてくと言ったんだ。引きずってでも、オレを連れていくさ」
アルテ「エグセニミル・・・」
お姉さまがエグセニミルに何と言おうとしたのか分からない。
その想いがエグセニミルに通じたのかも分からない。
凱旋門前を走る黒い男の姿が、それを確かめる機会を不意にさせた。
ラーアル「・・・ちょ、ちょっと ハルヴァーさん! 落ち着いて!」
アルテ「に、兄さん!? ・・・や、やば!」
そう言うと、お姉さまは足早にこの場を去ってしまった。
黒い男は彼女の居場所を探しているらしい。
もちろん嘘を教えた(笑)
ハルヴァー「感謝する! 少年騎士団のエース殿!」
そう言うと踵を返してハルヴァーは駆け出していた。
誰も居ない西の居住区へと。
「アルテニアァァ~!!」と情けない声を張り上げながら。
エグセ「・・・」
ラーアル「アルテニアって ハルヴァーさんに愛されてるなぁ・・・」
あの生真面目シスコン槍男を「お義兄さま」と呼ばねばならない日がくるかと思うと、少し眩暈がした。
ラーアル「でも『少年騎士団のエース』って 冒険者に ぴったりの呼び名だね!」
少年らしい素直さでラーアルがそう言ってくれて、少しこそばゆい。
エグセ「・・・フン!」
少年らしい太々しさでエグセニミルがそう返してくれて、少し嬉しい。
いかにも子供っぽい仕草と口ぶりで口をとがらせたエグセニミルは、
エグセ「おい、エース! ゴミ拾い、忘れんなよ!」
そう言うと、少年はまるでいつかのように駆け出していた。
少年と青年。子供と大人。
その淡い境界に居る彼の背を、少年の日々の終わりを、少し眩しく感じながらいつまでも見送った。
アルフォニミル伯爵からは軍票を頂いた。戦時下で貨幣の代わりに使用される手形らしい。
アルタナクエストで初めて実用的なモノを頂いた気がした(笑)